伊藤沙莉の『虎に翼』で思い入れのあるシーンは? 激動の第12週~第14週の裏側を明かす

 現在放送中のNHK連続テレビ『虎に翼』の主演を務める伊藤沙莉より、第12週から第14週にかけてを振り返るインタビューコメントが寄せられた。

 本作は、日本初の女性弁護士で後に裁判官となった一人の女性を描いたリーガルドラマ。現在は第14週まで放送され、寅子(伊藤沙莉)が判事として仕事に追われる一方で、家族との絆に徐々にヒビが入り始めている模様が描かれている。

 寅子は東京家庭裁判所判事補・最高裁判所家庭局事務官としての歩みをスタートして早々に、よね(土居志央梨)や轟(戸塚純貴)と再会。寅子を演じる伊藤も「再会できてすごくうれしかった」と振り返る。

「それと同時に、失った信頼をどう取り戻していくかという試練もあって。やっぱり彼女は、何においても女子部の存在が軸にありますし、特によねさんは一番の戦友でしたので。だから、来るなと言われても何度も会いに行くんですよね。演じている私ですら、もうやめたら!?と思うくらい。よねさんは彼女のなかで大きな存在ですし、どこかでつながっていると信じているから、寅子は諦めきれないんですよね」

 伊藤にとって第12週で特に印象に残っているのはどんなシーンなのだろうか。

「戦争孤児たちがたたずんでいる道を歩くシーンはよく覚えています。道男を探している場面だったので止まらずに歩かなければいけなかったのですが、子どもたちがどんな思いでそこにいるんだろうと考えたら、立ち止まらずにはいられなくて。トラちゃんではなく私個人として、通り過ぎることが冷たいと感じてしまったんですよね。でもそれは表面上の優しさで、私自身の甘さだなって。もしこれが現実の世界だったら、立ち止まって何かするよりも、もっと広い視野でこの子たちを助ける解決方法を探らなきゃいけないと思うので。撮影中はそんなことを考えながら、もがいていました」

 母・はる(石田ゆり子)の死が描かれるにあたっては、「花江(森田望智)のありがたみを感じました」と振り返る。

「一緒に泣いて、母を弔ってくれる親友が家族としていてくれる。それがこんなにありがたいことだったんだと、寅子は母の死をもって実感したんだと思います。撮影では、(森田)望智の存在がすごく支えになりました。日記を燃やすシーンでは、炎に日記をくべるお芝居をしなきゃいけないのに、なかなかできなくて。もし私一人だったら、どうなっていたんだろう。望智に感謝です」

 伊藤は「ぐっときた」シーンとして、第65話の寅子が歌うモン・パパに合わせて登場人物たちの思いが交錯するシーンを挙げた。

「『きっと家裁で働く私を、夫も褒めてくれると思います』と、改めて優三さん(仲野太賀)に思いをはせるんですよね。寅子の心には常に優三さんがいるということを表現できたことも含めて、このシーンには思い入れがあります。10週の第48話(6月5日放送)で、優三さんの幻影が寅子に“何かに無我夢中になっているときのトラちゃんの顔が大好き”と語りかけるシーンがありましたが、そこからここにつながっている流れがすごく好きなんですよ。優三さん亡き今、彼に対してできることが“何かに一生懸命になること”だとしたら、このとき日々の充実を感じているからこそ、再び優三さんを思い出したというか。そして寅子が歌っているときは、周りにいるみんなが泣きそうになっているんですよね。激動の時代、それぞれに人生があり、いろんな葛藤と戦ってきて今がある。全員がそんな顔をしていて、ぐっときました」

 第69話、穂高(小林薫)の退任祝賀会でのやり取りについては次のように振り返った。

「演じるにあたっては、なぜ寅子は穂高にここまで怒るんだろう?と悩みました。その気持ちを監督に話したら『表現としては怒りかもしれないけれど、ここは寅子から穂高に愛情を伝えるシーン。ここで二人は、ただの仕事相手や師弟関係じゃできないけんかをしている。もはや、ある種の親子げんかであって、これは大いなる愛なんです!』と。そうした視点で脚本を読み返したら、ふに落ちたんです。きっと寅子は、穂高先生の挨拶を聞いて『今までやってきたことすべてが雨垂れの一滴だと言うの? すごいことを成し遂げた先生を尊敬していたのに、そんな後ろ向きなことを言わないでよ!』と感じたんですよね。怒っているときって、根底にあるくやしい気持ちや悲しみ、恥ずかしさなどが怒りとして表れているんだと思うんです。ここでも寅子の声色や温度感は怒りに見えますが、根底にある先生への愛と敬意が怒りとして表れたと捉えていただけたらうれしいです」

 伊藤は「もう最後だからいいや!と見逃がさないのが寅子ですし、それが彼女の愛なんです(笑)」と寅子だからこその思考回路を分析する。

「まぁいっか!で、その人との関係性を終わらせたり諦めたりしない。寅子は絶対に、相手に気持ちを届けることを諦めず、関わり続けていく人なんですよ。かつて懐かしき兄が、『思ってることは口にだしていかないとね。うん、その方がいい!』(第15話)と言っていましたが、寅子もそのマインドを持っているんだなと思いましたね」

2024年度前期、NHK東京が製作を務める『虎に翼』は、日本初の女性弁護士で後に裁判官となった一人の女性を描いたリーガルドラマ。…

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』総集編前編
NHK総合にて、7月6日(土)16:35〜18:00放送

出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK